2019年9月22日日曜日

[最近読んだ本]タネが危ない

別ブログで上げていた本に関するコンテンツを移行したものです。
オリジナルは2012/12/18公開

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前回に引き続き農業系の本だけど。
野口勲著「タネが危ない」

著者の野口勲という方は、主にネットを中心に作物の種子の販売をされている方(野口種苗研究所。オンラインショップもあります。)。
それも固定種とよばれる、古くから栽培されている栽培品種の種子を扱っている。
現在流通している作物の種子のほとんどは、そういった固定種ではなくF1種とよばれる、有用な形質をそなえた両親を掛け合わせて生産した種子。だから、野口さんのように固定種の種子を専門的に扱うお店は少ないのではなかろうか。

内容は、野口さんの半生に始まり、手塚治虫の虫プロ出版社で働いた経験を通して育んだと思われる生命観、タネ業界における固定種やF1種の話など。最後に付録として1.家庭菜園は固定種がいい、2.交配種(F1)と固定種の作り方、とある。

前回紹介した赤米の博物誌でもちらと触れたが、以前はたくさんの品種があったが、今は多くが失われているようだ。その品種の多くはその地で代々選抜を繰り返して作られてきた固定種であろう。自然のものであろうと栽培品種であろうと、生物の多様性が失われるのは残念に感じる。

最近は、そういった固定種が失われないようにジーンバンクに種子を保存するようになってきているようだ。今後の栽培新種の開発に、多様な固定種が持つさまざまな遺伝子が活用できるかもしれない、眠れる宝の山かもしれない、ということが系統保存する理由の大きなものの一つのようだ。

しかし、多様な固定種が、極端に言えばその遺伝子が保存されておれば良いのか?
固定種は、人々が毎年育てる中で、味や風味の良いもの、その地域に適応したものなどを地道に選抜し作り上げてきたものである。その固定種独特の栽培方法も考え出されたかもしれない。すると、固定種が栽培され続け利用され続けることは、いわば文化が継承されることかもしれない。

そう考えるたとき、本書の付録1.家庭菜園は固定種がいい、2.交配種(F1)と固定種の作り方、はいい内容だ、と思った。自家用に固定種を育て、伝統食を作り、あるいは新しい調理を楽しむ。地域の家庭家庭で、固定種を育て活用する文化を伝え、ついでに固定種の多様性と系統も維持する。なかなか、面白い社会ではないか!来年は庭で固定種栽培に挑戦してみよう。